最新情報

(AMS鑑定通信 2024年春号から)

 

1.能登半島地震
 1月1日午後4時過ぎに能登地震が発災しました。北海道胆振地震以来の大きな人的・物的被害をもたらす災害となってしまいました。
 当然、地価にも影響を及ぼします。実は昨年の令和5年地価調査(令和5年7月1日価格時点、9月20日公表)で、
住宅地、商業地共に最大の下落を示したのは石川県珠洲市の地点でした。
 住宅地は珠洲-1(5,900円/u、△10.6%)、商業地は珠洲5-1(14,800円/u、△8.1%)を示しています。

 

 能登半島先端部では2020年から群発地震が続き、2022年6月19日には珠洲市で震度6弱を記録する地震が、
2023年5月5日には同じく珠洲市で震度6強を記録する地震が相次いで起きていました。
 珠洲市はもともと少子高齢化・過疎化の影響で土地需要低下による地価下落傾向にありましたが、群発地震を契機に、
安心を求める心理的な要因から土地需要が更に減少したと報道されていました。

 

 令和6年地価公示は、1月1日時点の価格を3月中旬に公表します。1月1日の地震が公示価格に反映されるかどうかですが、
価格時点は正確には1月1日午前0時であるため、今回の能登半島地震の発生は「考慮外」とした地価が発表されます。
しかしながら、長期間続いている群発地震の影響を色濃く受けていたことから珠洲市や輪島市では地価公示価格は大幅な下落が予想されるところです。

 

 今回の能登半島地震被害が従来の地震被害と異なるのは、いまだに地震収束の予測が立たないことです。
沿岸部では土地が数m隆起したエリアが延々と続き、漁港施設の復旧目途も不明です。なるべく早く地震が収まって欲しいとお祈りします。

 

 

2.建築物の省エネ性能表示
 2023年は「地球が沸騰している」との表現で叫ばれるほど、地球温暖化懸念が注目される1年となりました。
国は2050年カーボンニュートラルの実現を目指していますが、その一環として2024年4月から建築物の省エネ性能ラベル表示制度が始まります。
 具体的には2024年4月1日以降に建築確認申請を行う新築建築物及び、その物件が同時期以降に再販売・再賃貸される場合に、
販売・賃貸事業者(売主、貸主、サブリース事業者を含む)が省エネ性能ラベルとエネルギー消費性能評価書を発行・保管しなければなりません。

 

 上記は国土交通省HPから抜粋した例示です。目安光熱費は、省エネ性能に基づき算出された電気・ガス等を勘案した年間光熱費を示したものです。
光熱費が高くなった現在では、少々家賃が高くても省エネ性能が高い物件を賃貸する方が得だと判断する人も増えてくると予想されます。

 

 

 

(AMS鑑定通信 2023年冬号から)

 

1.区分所有補正率
 国税庁は10月6日、「居住用の区分所有不動産の評価について(法令解釈通達)」を公表し、併せて7〜8月に実施したパブコメ概要も示しました。
新しく「区分所有補正率」という名称を導入した外は、7月の案と大きく異なることはありません。
令和6年1月1日から採用されます。

 

 これまで明確でなかった点も整理されました。
評価乖離率が零または負数になった場合は評価しないこと、
「一室の区分所有権等に係る専有部分の面積」は固定資産評価面積ではなく、登記面積によることなどです。

 

パブコメで指摘された事項で個人的に関心を引いたのは次の事項です。

 

・賃貸マンション(一棟所有)にも適用すべきではないか?

 

・区分所有オフィスも適用すべきではないか?

 

・総階数指数について33階を基準とした根拠は?
⇒高さ100m(1階を3mとした場合約33階)を超える建物には、
緊急離着陸場等の設置指導等がなされることがあるが、それを超えて高くなることによる追加的規制はないこと、
及び一定の階数で頭打ちになると仮定して分析したところ、良好な結果が得られたため(国税庁回答)。

 

・全国一律の算式を適用すべきではないのでは?

 

・今後のマンション市場の動向に対する見直しは?
⇒本通達の今後の見直しは、3年に1度行われる固定資産税の評価の見直しに併せて行うことが合理的であり、
改めて相続評価と売買実例価額との乖離状況等を踏まえてその要否を検討する(同)。

 

 パブコメの質問は的を得た内容のものが多く、専門家による関心の高さが窺えました。

 

 

2.名古屋市マンション市場
 株式会社東京カンテイが季刊誌「Kantei eye」で名古屋圏のマンション市場動向分析を公表しました。
Kantei eyeでは、名古屋市16区を中心3区(中区、東区、千種区)、
東部4区(昭和区、瑞穂区、名東区、天白区)、西部3区(西区、中村区、中川区)、
外周6区(上記以外)に分類し、2012年から2022年の推移を示しました。

 

 新築マンションの一戸当たり平均専有面積と平均坪単価は、以下の通りとなっています。
平均坪単価(万円)    平均専有面積(u)
   2012年   2022年    2012年 2022年
中心3区173.6   299.5      75.99     62.81
東部4区166.2   239.8     80.16     76.22
西部4区142.7   245.9     62.40 64.95
周辺6区128.7   165.0     80.30     78.64

 

 10年間で都心部マンションの価格上昇が顕著であることがわかります。
中区のみ抽出すると、2012年の平均坪単価149.6万円が2022年299.6万円とほぼ倍です。

 

同様に中古マンションは以下の通りと報告されています。
平均坪単価(万円)   平均専有面積(u)
   2012年 2022年    2012年2022年
中心3区92.1 166.1     76.1871.75
東部4区82.3 113.3     77.0877.87

 

 

 

(AMS鑑定通信 2023年秋号から)

 

1.マンション評価方法

 

 国税庁は6月30日、マンション相続税評価の見直し案を公表し、7月21日にパブコメを開始しました。相続税評価額が市場価格と乖離する要因となっているものとして、@築年数、A総階数、B所在階、C敷地持分狭小度の4つの指数を限定列挙し、これらを利用して「乖離率」を求め、現行評価額に乖離率を乗じて、更に0.6(=最低評価水準)を乗じて新たな評価額とするとしています。

 

 評価乖離率は、「@×△0.033 +A×0.239 +B×0.018 +C×△1.195 +3.220」と規定しています。

 

@築年数:築年がかさむほど、乖離率は低下します(30年で0.99低下します)。

 

A総階数が増えるほど(33階まで)、乖離率は増加します(20階で4.78増加します)。タワーマンションは明らかに乖離率が大きくなります。

 

B所在階が高くなるほど、乖離率は増加します(20階で0.36増加します)。

 

C敷地持分狭小度:タワーマンションのように敷地持分面積が小さいものより、階層が低く敷地持分面積が大きいものが乖離率が低下します。郊外型の低層マンションでも1を超えるものは少ないので、タワーマンションと比較して最大で1程度しか差が出ないと判断されます。

 

 実際に直近で私が不動産鑑定評価等をしたことのあるマンションで上記式を当てはめ、現行相続税評価額と比較してみました(但し、土地評価額は概算)。東京都区部2件、大阪市1件を含む計13件で試算したところ、評価乖離率は最大で2.83(東京の投資用ワンルームマンション)、最低は1.21(名古屋所在の3階建築25年ファミリーマンション)でした。13件中、現行より評価額が上がる1.67以上となったのは9件でした。体感的には多くのマンションで相続税評価額が上昇するものと思われます。

 

 評価乖離率ではA総階数が大きな変数となることから、今回の新評価方法はタワマン節税封じに力点が置かれているのは間違いなさそうです。

 

 

2.今後の影響

 

 新評価方法でマンション人気は陰りが出るのでしょうか?私は新評価方法が公表されたことで投資家は安心してマンション投資が出来るようになったと考えています。先ほどの13件を分析しても、新評価額と実勢価格にはまだ開差があり、実勢価格は新評価額の2倍以上であるものが少なくありません(逆に郊外部の築年が古いマンションはそもそも現行評価額自体が高く、新評価方法で相続税評価額が下がるケースも出てくる)。

 

 都心部や主要駅前に建設されるマンションはまだまだ値上がり傾向が顕著です。東京都23区に限定すれば、3月の平均販売価格は2億円超えと報道されました。地方都市でも主要駅前で1億円を超えるマンションは珍しくありません。

 

 マンションの市場価値は上記の4指数のみが重視されるわけではありません。マンションはブランド商品です。建築・販売会社、立地・地名などが大きな要素を占めます。またマンションは戸建住宅と違い、WEBで中古マンションの物理的状況や直近相場などが確認でき、中古取引市場が充実しており、売却しやすい(換金しやすい)メリットがあります。人気の中古マンションだと、買い希望者が順番を待っています。

 

 令和4年4月19日最高裁判決(6項通達)は賃貸マンション2物件を使った相続税対策に関するものでしたが、相続税節税策にタワーマンションなどを購入するのはやや警戒感が出ていたことは間違いありません。最近はタワマンから10数階の大型高級マンションへ人気が移っている傾向もあります。確かに新評価方法でも10数階程度で敷地持分がやや大きめのものが有利です。富裕層のマンションを使った相続税節税策はこれまでと違った形で「堂々」と行われる時代が到来するのかもしれません。

 

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